歴史や文化への誇りを強みにする
日本政府観光局(JNTO)によると、2019年の訪日外客数は3,188万人。統計を取り始めた1964年以降で過去最高記録をマークしました。また、この数年で訪日外国人旅行者の旅行動態も大きく変化しています。団体旅行から個人旅行への移行、スマートフォンを最大限活用した旅行スタイルへの変化、都市部から地方部への観光の広がり。訪日外国人旅行者のニーズも多様化し、商品の所有に価値を見出す「モノ消費」から、商品やサービスを購入したことで得られる体験に価値を見出す「コト消費」へとシフトしています。
これからは、その土地独自のコンテンツや文化こそが観光を促進する鍵になる。世界を俯瞰してみても、日本は西洋と東洋に挟まれ、長い歴史を通して育んできた文化が地方ごとに色濃く残る面白い国です。会津美里町も、独自の文化をコンテンツにして旅人に知って欲しい。楽しんで欲しい。
そこで、『会津美里の日々』編集部では、訪日外国人に関する最新のデータを分析しながら、これからのまちのコンテンツづくりに必要な視点をまとめました。
訪日外国人は「文化的体験」を求めている
2018年、観光庁はドイツや英国、フランス、米国、カナダ、豪州の 6 カ国において訪日に関する大規模アンケート調査を実施し、自然や文化の分野にまたがる 7つの主要なパッション(興味関心)を特定。同じく観光庁が2019年に20カ国の海外旅行者に対して行った「世界のコト消費と海外旅行者の意識・実態の調査結果」では、旅行者には以下の15の志向性があると示しました。
(出典:観光庁「世界のコト消費と海外旅行者の意識・実態の調査結果」(2019))
関心が高いものの上位は自然、建築、歴史、食、伝統文化など。いずれも、「現地でしかできないことなど、本物の体験」「自分の知識や教養を増やすような、学びのある体験」「家族や友人に話せるような旅先での面白い体験」を求めていることが分かります。
では、彼らは訪日時にどんな体験型コンテンツを体験しているのでしょうか。同調査によると、「神社仏閣観光」「城の観光」で4割を超え、次いで「伝統文化体験」、「ガイドツアー」、「温泉」、「伝統文化鑑賞」が3割前後。総じて日本固有の体験型コンテンツの体験割合が高く、他国・地域でも体験できるコンテンツは相対的に低いという興味深い結果に。
(出典:観光庁「世界のコト消費と海外旅行者の意識・実態の調査結果」(2019))
その土地でしか出来ない体験を味わった人たちは、総じて満足度高く旅の記憶を持ち帰っている。今後は彼らのニーズに基づいた体験型コンテンツの充実が課題となっています。
高まる地方鉄道へのニーズ
また、地方鉄道沿線には、美しく豊かな自然環境、伝統的な食や文化、地域の人々との交流といった、体験型観光の有力コンテンツとなり得る魅力的な観光資源が豊富に存在しています。会津美里町なら、地域全体に面的な広がりをもつ只見線を貴重な観光資源としてとらえ、鉄道を軸としてこれらを一体的に整備し、効果的なマーケティング施策を展開することにより、訪日外国人の誘客促進が見込まれます。
2018年に観光庁が発表した『外国人観光旅客を対象とした地方部における鉄道利用促進に向けたガイドライン』では、地方鉄道に対するニーズが国別に分析されています。只見線のファンの中心を占めるアジア諸国の人々には、地方鉄道に乗ることを楽しみにする傾向がある様子。「『地方鉄道に乗った』というステータスを得るため、一部区間だけ地方鉄道に乗車するニーズもある」とも言われるほど。しかし、近距離であることの裏返しとして、日本での滞在期間が短い傾向にあり、どうやって只見線を知ってもらえるのかがポイントになってきます。
(出典:観光庁『外国人観光旅客を対象とした地方部における鉄道利用促進に向けたガイドライン』(2018))
アジア諸国は「団体ツアー参加」の割合が比較的高い一方、欧米豪からの旅行客は個別旅行(「個人旅行パッケージ利用」あるいは「個別手配」)が大きな割合を占めています。「自分達で計画を立て、自由に旅行したい」という傾向が強く、「地域の人と交流したい」といったニーズも高いため、バスツアーよりも鉄道旅行を選好するケースも少なくないそう。しかし、日本の地方部や地方鉄道についての認知度は高くないことから、結果的に魅力的な日本の地方部や地方鉄道に辿り着かないまま帰国しているという現状があります。
(出典:観光庁『外国人観光旅客を対象とした地方部における鉄道利用促進に向けたガイドライン』(2018))
これらのデータを踏まえて考えると、会津美里町にはもっと深い、途中下車の魅力はまだまだあると知らせることが出来ます。
まちに秘められたポテンシャルを活かす
「現地でしか出来ない、本物の体験を求める」という期待に対しては、実際に会津美里町にはどんな歴史と文化を感じるコンテンツがあるでしょう?
例えば、会津本郷。13ある窯元を巡り、実際に陶芸を体験しながら、400年以上の伝統を誇る「会津本郷焼」のルーツを学ぶことができる。地元の人が愛する「にしんの山椒漬け」や「身不知柿(みしらずがき)」のつくり方を、地元の料理上手なおばあちゃんに教われば、昔から受け継がれる生活の知恵と味を学ぶこともできます。
新鶴なら、「新鶴ワイナリー」でワイン造りの工程を見学。その後、施設内のレストランで地元の材料をふんだんに使った料理と、会津美里町産のぶどうやリンゴを使ったワインを頼み、土地の恵みを学ぶ。
会津高田なら、岩代国一之宮として、また、「会津」のルーツとして古くから地元の人に信仰されてきた伊佐須美神社へ。宮司さんに御朱印を書いてもらいながら、日本ならではのしきたりや歴史を教えてもらい、それに倣ってお参りする。道中では、ローカルが愛する三色団子を楽しんで。
こうやって書き出して見ると、「これとあれを組み合わせたら面白そう」というアイデアが次々と湧いてきます。これからのまちのコンテンツづくりに必要なのは、ここでしか出来ない唯一無二の体験。「#会津美里の日々」の発信に登場する等身大の会津美里の日々の風景こそ、きっと、旅人たちが求める、この場所ならではの文化体験。その体験のコンテンツ化が求められています。
文:『会津美里の日々』編集室
写真:安彦幸枝