2020.03.23

「世界で最もロマンチックな鉄道」で会津美里町を巡る

会津美里町を走る只見線は、会津若松駅から新潟県魚沼市の小出駅を結ぶ全長135.2kmのJRの鉄道路線です。会津若松駅を起点として西へと延伸した「国鉄会津線」と、新潟県小出駅を起点として東へと伸びる「国鉄只見線」が、紆余曲折を経て、一本の鉄路になったのは、1971年のこと。

 


全通記念列車の発車式には田中角栄も出席(左から2番目)(出典:磯部定治著『只見線物語』(恒文社)p180)

1日あたりの運行本数は決して多いとは言えませんが、沿線周辺が国内有数の豪雪地帯であるがゆえに通行止めが起きがちな冬季にも地域の交通を支えてきてくれました。冬期間は福島や新潟の県境が通行止めとなるため、只見線は地域の人々にとって大切な足として、その役割を担ってきました(残念ながら2011年の豪雨により、現在も会津川口駅(金山町)から只見駅間で不通となっています)。

実は今、会津美里町の暮らしの風景になくてはならないこの只見線が「世界で最もロマンチックな鉄道」として、国内外から注目を集めています。

只見線の写真がアジア諸国でブレイク

只見線の魅力と言えば、何と言っても沿線を流れる只見川や雄大な山々が四季を通して織り成す絶景。いくつもの鉄橋とトンネルを抜けて奥会津へと進む車窓からの風景は、観光客の心を惹き付けています。

この只見線ブームの火付け役となったのは、只見線三島町出身で現在は金山町に暮らす郷土写真家の星賢孝(ほし・けんこう)さん。「只見線の魅力を世界に発信したい」と、日々SNSに美しい只見線の写真を投稿したところ、それが台湾で反響を呼び、注目を集めます。そして、東北観光推進機構が2015年2月に中国の短文投稿サイト「微博(ウェイボー)」で只見線を紹介したことで、アジアで広く知れ渡るように。雪景色のなか、只見線が走り抜ける姿をとらえた写真に添えられたのは、「世界で最もロマンティックな鉄道」の文字。

すると、「息もつけないほど美しい」「生きている間に行ってみたい」という感動のコメントが集まり、瞬く間に多くに人の目に届いたのです。

同年10月には、福島県観光交流課が地元の郷土写真家である星賢孝さんが撮影した只見線の写真を福島県公式Facebookページ『ふくしまから はじめよう。』で紹介したところ、台湾やタイでも話題に。県も只見線を活用したインバウンド促進に乗り出し、只見線沿線のイベントや地域の情報をリアルタイムに多言語で発信するポータルサイトを制作。また、アジア圏をターゲットにした只見線のプロモーション動画もつくり、只見線を観光資源のひとつとして打ち出すようになりました。

国内の鉄道ファンにも人気

四季折々の変化を感じる只見線の風景を前面に打ち出したPRが功を奏し、2015年には500人に満たなかった外国人観光客数(宿泊者数)が、2019年は2,000人を突破(参考:福島県奥会津の7町村で構成された「只見川電源流域振興協議会」の調査報告)。全体の57.1%を占めたのは台湾で1,230人。次いで韓国282人、ベトナム250人、タイ157人、香港63人、中国52人と、雪国景色への関心が高いアジア地域からの観光客が多いという結果になりました。

もちろん、只見線の人気は国外からの観光客に限ったものではありません。日本経済新聞「日経何でもランキング」(2008)では、「紅葉の美しい鉄道路線」で国内第2位、楽天トラベル「旅行好きが選ぶ、おすすめのローカル線ランキングTOP10」(2016)で国内第5位、「鉄道コム×旅と鉄道共同企画 好きなJRローカル線ランキング(2016)」で国内第1位を受賞するなど、国内の鉄道ファンの間でも人気が高く、ローカル線の各種ランキングでは上位に選ばれています。只見線の鉄橋を見下ろす福島県三島町などの撮影スポットでは、大型の望遠レンズを付けてシャッターを押す鉄道カメラマンや観光客の姿を毎日のように見かけます。

会津美里町で途中下車する「きっかけ」をつくる

しかし、これだけ只見線の撮影目的で訪れる観光客が増えているにも関わらず、会津美里町の観光客数がなかなか伸びないのが現状です。そこで、一度、その理由を探ってみたいと思います。

只見線を楽しみにやって来る観光客の旅のスタイルを調べてみると、次のふたつのパターンに分かれます。

 

  • 会津若松市内で前泊→只見線で会津若松駅を出発→会津川口駅まで乗って折り返し→会津若松駅に戻る
  • 只見線で会津若松駅を出発→会津宮下・早戸の温泉宿で1泊→会津若松駅に戻る

 

どちらも、会津美里町は車窓から眺めるだけ。そんなみなさんにぜひ、会津美里町に途中下車して、まちを楽しんで欲しい。会津美里町にしかない魅力を感じて欲しい。

そのために必要なのは、「会津美里町にしかない」コンテンツを積極的に発信して降りてもらう「きっかけ」をつくり出すこと。例えば、根岸駅なら原料であるブドウ栽培から醸造までを行うドメーヌ形式のワイナリー「新鶴ワイナリー」でワインの醸造を見学しながら、施設内のレストランで地元の材料をふんだんに使った料理を楽しむ。会津本郷駅なら、窯元を巡りながら、「会津本郷焼き」の歴史に触れる。会津高田駅なら、駅前の商店街を散歩して会津地方のパワースポットと言われている「伊佐須美神社」へ。

只見線を目的に訪れる人たちに、会津美里町の魅力を届ける発信を続けていきましょう。

 

文:『会津美里の日々』編集室
写真:安彦幸枝(サムネイルのみ)

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