2017.11.23

ローカルメディアの届け方・続け方

会津美里町情報発信人材育成の取り組みとして、「まちの発信をする人を増やす」ことを目指して開催するプロジェクト『会津美里町 まちの編集室』。取り組みは、座学で学ぶセミナーと町民参加型のワークショップの二部構成で進みます。セミナーでは、いま会いたい人をゲストにお迎えして学びます。

第2回目のゲストは、株式会社morondoの代表・原田一博さん。運営している大阪府枚方市(ひらかたし)に特化した地域情報サイト『枚方つーしん』は、ウェブメディアとして月間288万PVというアクセス数で注目されています。地域で発信を続けてきた原田さんが、ローカルメディアの役割や続けるためのコツをたっぷりと話してくれました。

「地元民にしかわからない」から面白い

 


©枚方つーしん

枚方市は、大阪と京都のちょうど中間に位置する人口40万人の都市。日本最古の遊園地「ひらかたパーク」があることや大型書店「蔦屋書店」の創業地として知られています。

『枚方つーしん』が産声をあげたのは、2008年。原田さんは、芸人である本田一馬さんと共同代表として一緒にメディアを立ち上げました。最初は個人のブログからスタートし、枚方で過ごす日常のなかで見つけた面白い出来事を発信していたのだそう。

掲載したのは、枚方市民にしか分からないようなマニアックな情報。そのなんとも言えない感じが地元の人たちの注目を集め、現在はまちにある店舗の開店・閉店情報、地域のイベントレポート、求人紹介、まちの風景写真などを幅広く発信するようになったのだとか。

記事の“価値”は、読む人が決める

 


©枚方つーしん

「サークルKサンクスの跡地がファミリーマートになった!」
「郵便局が建物のすぐ後ろ側に移転する!?」

そんな些細な出来事が記事のネタとなっています。一見「これって誰が読むの……?」と疑問に思いますが、そこに『枚方つーしん』ならではのこだわりがあるのです。

「私たちは雑誌に掲載されるような洗練された情報ではなく、まちに起こった変化をそのまま発信することを大切にしています。例えば、長年続いたお店が閉店すると聞いたら、すぐ記事にする。閉店自体はもちろん悲しいことですが、そのお店と関係がある方が必ず居るのです。その事実を知らずにいるほうがもっと悲しいですよね。そしてそこには、『まちの記憶を残す』という意味も込めています」

「記事を見て来たんだよ!」と、昔ながらのお客さんが閉店前に来てくれたりすることで、お店の方からも「知らせてくれてありがとう」と感謝されるそう。つい見落としがちな出来事でも、一つひとつ丁寧にすくって発信する。また、編集部だけではなく、時にはまちの人も発信者になれる機会をつくっていると言います。

 


©枚方つーしん

 


©枚方つーしん

「枚方フォトというコーナーでは、読者がまちにまつわる写真を短い文章とともに投稿できるようになっています。写真は記憶に繋がっているので、見る人によって感じ方が全然違う。いま枚方に住んでいる人たちにとっては普段から見慣れた風景でも、まちを離れた方にとっては懐かしい気持ちを思い起こさせてくれることもある。それだけでこの記事には価値があるんです」

まちの誰かが関わっているだけでニュースになる

 

『枚方つーしん』を始めてから9年。読者からはこんな言葉が届くようになったそう。

「枚方から外に嫁いだはずの娘が、私よりも今の枚方のことをよく知っている」
「枚方を出て数年になるけれど、やっぱり枚方に帰りたいと思うようになった」
「枚方のことがもっと好きになった」

月間表示回数288万PV、月間閲覧者数40万人を誇る人気サイトに成長した『枚方つーしん』。どうして、そこまで多くの人に見てもらえるようになったのでしょう?

「ゼロから毎日コツコツ積み上げていたから、ここまで来れたのだと思います。ローカルメディアって、育つまでにすごく時間がかかるもの。でも、続けていたら、唯一無二の魅力を発信するメディアになる。そうやってまちへの関心が高まれば、地域課題を解決することにつながるはずだと思っています」

そう語る原田さんは、「ただ自分が知りたいこと、面白いと思うことを毎日発信していたら、いつの間にかみんなが面白がってくれるようになった」と感じているそう。大切なのは、日々のなかにある小さな変化をキャッチして、一つひとつ丁寧にすくい取って発信すること。

続けることには根気が必要ですが、発信されたまちへの想いはローカルメディアに乗って、まちの内外へと伝播してたくさんの人の「まちへの想い」を繋ぎ合わせてくれる。そんな可能性を感じる原田さんのお話でした。

文:原山幸恵(tarakusa)

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